うたうポリゴン

魔王K++(ケープラ)のポータル兼個人ブログ

メンズリブ・男性学の現状分析と構造的欠陥

 今回の記事は5月に一度ボツになったのだが、以下の記事の加筆部分で触れた、7/31に起きたUL悪口DM漏洩事件でまた色々と考えさせられたので、多少加筆修正して公開する。
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はじめに

 元構成員なのでメンズリブには因縁がある。経験談から、改めて語っていきたい。属人的・個人的なことは一切抜きにした、メンズリブそのものへの問いを。
 関連記事はこの辺。弱者コンテンツの記事はアンチフェミ(弱者男性論)批判がメインだが、メンズリブも結局自分たち向けの「弱者コンテンツ」で摂取し続けることの危うさは同じ。「非モテ」や「生きづらさ」がアイデンティティになってしまうと、ますます抜け出せなくなるからだ。
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メンズリブをやる人たちの特徴

 後述するがメンズリブ団体もまた結局ホモソ、綺麗なホモソ、インテリなホモソ、行儀のいいホモソなのである。
 私がいたメンズリブ団体では大学のゼミでフェミニズムをやってたとかいう人がゴロゴロいたし、理系出身者もいたが人文系の本が読め、さらに語れる「言語的強者」ばかりだ。スポーツで言ったら、ムキムキの「運動できる奴」の集まりである。相当偏っている。体育は嫌いな人たちなんだけど。
 参加者たちはそれぞれ年齢差もあり現在進行形で生きづらい人もいるが、どちらかというと(中学・高校はしんどかったが)大学以降は人生をエンジョイできているインテリが多い印象。既婚者(事実婚含む)も多い。まとめると、

学歴・人文系教養高め、スクールカースト低め(非モテ)、年収そこそこ〜低め(または学生)、親フェミニズム、オタク、運動苦手、育ちがいい、反自民、反ネオリベ

 メンズリブにはこういう、一定のフォーマットの人間しかいない。綺麗にフィルターされているのだ。ネット依存のオタクでなければメンズリブなど知らないし、言語的弱者は座談会のような場所に出て行こうとしない。せいぜい講演を聞きに行くくらい(なのでパネラー参加と、弱者or外野向けの「聴衆参加」に分けるといいかも)。もちろん「生きづらい」と感じていないリア充・勝ち組男性は最初からメンズリブのターゲットにならない。
 きわめて限定的な、「一部の弱者男性たち」の集まり、それがメンズリブである。フェミニズムが嫌いな女性が「勝手に女を代表するな」と反感を抱くように、メンズリブも「男性」を代表してしまっていいのだろうか、という問いが今回の主題である。圧倒的マイノリティの男性なのだから。
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 上記記事のように同質性を持った集団の集まりは、楽しい。それは否定しない。私だって最初オフ会感覚で参加したし、その楽しさは期待通りのものだった。
 しかしながら、サバルタンという概念があるように、真の弱者は語ることすらできない。インテリの語彙、話法、哲学・フェミニズム知識を前提とした弱者男性の「語り」には偏りがある。男性を代表しているとは到底言えない。「そうはいっても、問題提起をして、弱者・マイノリティ運動を最初に始めるのはインテリだろう」という反論はわかる。最初はそれでいい。だがメンズリブの場合、「広がりのなさ」こそが問題なのだ。

 今度は別の団体について。1年以上前だが西井開さんがやってる団体が本を出したので、先日立ち読みをした。西井さん以外のメンバーのことは全く知らなかったが、常連・コアメンバーなのだろう。偏差値の高い大学の同人誌的なノリというかまんま同人誌で、とても楽しそうな雰囲気は伝わってくる。

 ただ、よその団体もやっぱり同じインテリ集団なんだなあと悪い意味での気づきがあった。「この本を読んでもモテません」と開き直り、自虐的に、ユーモアを持って自分たちの非モテを分析・研究する。こんなことはインテリにしかできないし、そこら辺の非モテ男性が読んでも面白くないだろう。
 Amazonレビューに「女性の非モテとして面白かった」というのがあった。相変わらずこの手のコンテンツが女性にポルノとして消費されてるのは問題だがそれはひとまず置いておいて、それでもやはり真に生きづらいのは非モテ女性だ。女性の方が相互ケア・連帯能力が高いはずなのだが、こればかりはなかなか難しいのだろう。
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 また私の話に戻る。冒頭に挙げたフォーマットからは外れた、ちょっと変わった人も実はいたのである。ただ、そういう人はリピーターにはならない。同質性による、集団の中の自然淘汰があるのだ。こうやってメンズリブ団体でさえ、ゆるやかにホモソは形成されていくのである。まさにホモソの宿命(女性メンバーがいれば厳密には「ホモソ」ではないが、そういう話ではない)。
 そして、冒頭のUL悪口DM漏洩事件も、露骨なアンフェの人を受け入れた結果である。その場を見たわけではないが、どちらにしろ思想が合わない人は排除される「リベラル」なホモソであることがはっきりした。

メンズリブへの誤解と後悔

 私はかつて、メンズリブが政治運動としてもっと大きくなればいいと思っていた。発信者・中核メンバーはインテリでも、広がればいいと期待していた。フェミニズムのように、直接顔を合わせることがなくても多くの男性が連帯できればいいと思っていたし、同調圧力を高めて男社会を男の手で変革するという志を持っていた。
 だがどう見ても、上記フォーマットの男性以外に届くものではない。広げようという気もない。主張内容もフェミニズムの枠からは一歩も出れないし、何より主催者とターゲットの属性が偏りすぎている。左翼系雑誌に載ったり本を出したところでエコーチェンバー、賛同者は増えず世間・社会になんの影響力も持たない。過剰な期待をしていた私が愚かだった。

 また、団体・個人差はあろうが、メンズリブ主体者にも本気で社会を変える気はないように思える。西井開さんの主張に、「(フェミニズム的な)新たな男らしさ」による規範、男同士のマウント、ホモソの序列を作ってはならないというものがあった。何を甘っちょろいことをほざいているんだとしか思えないが、男性学メンズリブ界隈でこのような意見はわりと主流である。とにかくどんな形でも「ステータスとなる男らしさ」が大嫌いなのだ。永遠にモテないだろう。
 モテはどうでもいいとしても、他人に何かを押し付けることを極度に嫌うパターナリズム大嫌い君」だから、社会を変えることが構造的にできない。フェミニズムのような闘争を仕掛ける攻撃性がないのだ*1。それを「有害な男らしさ」として最初に否定してしまっているから。実はこの辺の根本姿勢が一番の問題で、「弱者男性が何か主張をするとフェミニズムと衝突する局面もあるが、それは教義としてできない」という構造的欠陥がある*2。これは憶測レベルになるが、対外的には「フェミニズムに伺いを立てながら、弱者男性の辛さを可視化し、アカデミック層に認知してもらって終わり」なのが男性学メンズリブと言えよう。認知も世間一般ではなく、仲間内止まりなのが残念なところだ。広く認知されるには『逃げ恥』のようなフィクションのヒット作頼みになるだろう。

 長くなったがまとめに入ろう。メンズリブ男性学には既存の男社会・ホモソを解体、カーストを逆転させようという思想がないし、当時自分でも気づいてなかったが私がやりたいことはその方向だった(仮にあの一件がなくても、遠からず私は脱退していただろう)。スクールカーストを構成するのは女子でもあるし女の影響力は大きいので、無知で愚かな女性には啓蒙しなければいけないだろう。この辺はアンチフェミ的な主張になるし、現在のメンズリブと決定的に相容れないところだ。「カースト上位でも女子は常に男社会の被害者である」というのがフェミニズムの論理であり、女性様に逆らうことなどあってはならないのだから*3
 草食系リベラルの「選挙に行ってもどうせ政治は変わらない」「権力がないと社会は変えられない」というような政治的「諦め」からスタートしているところもまた誤りである。そう、メンズリブは最初から政治運動ではなかったのだ。なぜそこだけはフェミニズムの真似をしないのだろう。
 主催者・参加者にインフルエンサーがいればいいという話でもない。今の形で一人二人いても同じで、他の話題にくらべたらメンズリブ系発言に反応はないし、仮に芸能人が来たとしてもそれはその人目当てのファンクラブになるだけだろう。

メンズリブの言う男ってなんですか? 自分たちの都合のいいように簒奪していませんか?

 インセル系「女をあてがえ」弱者男性論は論外だが、こちらの方が間口は広く大衆ウケはする。市場的に惨敗しているのがまず問題。現状は女性への過剰な他責か、ゼロ他責の両極端しかないのである。東京03飯塚風に言えば、「ちょうどいい奴いねぇのかよ」。
 メンズリブ関係者の裏の本音にはカースト上位者への怨嗟があると思うが、実はこの点に限れば弱者男性論と似ている。「勉強もできてフェミニズムをインストールしてる俺たちはもっとモテていい・評価されるべきだし、カースト下なのはおかしいよね」というあたりだが、フェミニズムのところ以外は実はアンチフェミの弱者男性論と同じだったりする。もっとエゴを出していいと思う。

 さて、メンズリブがネットだけでなく、内輪のオフ会でもなく基本的に活動を公開で、運動っぽくやっているのは理由はなんだろうか。当然気持ちいいから、動機があるからやっている。それは進歩的な「善い男性」という自尊心と、社会的認知・承認なのではないか。「やってますアピール」という言葉があるが、既に述べたように政治運動ではないので自分たちに向けた「運動やってます」アピールなのだ。「遊びに行っている」のではなく、社会的にまともなことをやっていると思いたいのだ。
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 つまり自分たち(非モテ亜インテリ男性)で生きやすくなることを目指すと共に、「承認をあてがえ」がメンズリブなのではないか。ミソジニーな「女をあてがえ」よりはマシな欲求だが、その程度という疑念、いや確信がある。語り合うことは楽しいし相互のケアになる、それはいい。しかし、その先のゴールは一体どこにある? 具体的な目標・成果が一切ない。ゴミ拾いのボランティアでもやった方がはるかにマシではないか。
 ところで、私のような喧嘩別れの脱退ではなくメンズリブを綺麗に「卒業」できた人っているんだろうか。今参加している人たちの将来を考えると、そこが一番危うい。弱者コンテンツ中毒は、どこにでもあるからだ。
 メンズリブを年単位でやった人に問いたい。以前よりあなたは生きやすくなりましたか? 常連メンバーでホモソとして楽しいならそれはそれだが、恋愛や仕事といったリアルは何も変わらないどころか、むしろしんどくなる。本当にそれ意味あるの?
 どうみても「フェミ談義で盛り上がれる社会学の社会人サークル」以上のものにはならない。時には現実逃避も必要だが、そこで盛り上がれば上がるほどリアルがしんどくなるだけ。非モテ、仕事ができないといった「男社会の落ちこぼれでもいい」という甘やかしは、いずれ自分に返ってくる。既にある程度地位を築いた中年ならいいのだが、若い人がハマると本当に危ない。

 まとめると、メンズリブの本質は、

  • ゆるい互助会・読書系インテリサークルとして、自分たちだけのために楽しむ
  • フェミニズムが絶対的教義。自他ともに、善いリベラルな男性として認められたい。参加者にアンフェがいたら排除する
  • 先行者利益狙い、あわよくばメディアに出たり本を出したりして有名になりたい、尊敬されたい=婉曲的にモテたい
  • 運動やってますアピールは自分たちのためで、社会を変える気は一切ない

 となる。なので今後も流行らないし、米軍と自衛隊の関係のように、フェミニズムの傘の下にずっと入ったままだ。そこから出ようとすると、別の思想団体になるしかないし、アカデミックからは破門され居場所はない。それも広義にはメンズリブだし、なぜ既存のメンズリブ男性学だけが「男性」を代表しているのか、ますますわけがわからなくなるが……。

 メンズリブの男性定義が漠然としているからって、安易に「弱者」とか「敗者」を付ければいいってもんでもない*4。既に述べたように、彼らはインテリであり言語的強者なのだから。構成員の属性の偏りと「一面では強者である」という矛盾がある。
 最後に、メンズリブへの問いは3つになる。

 この辺が今のメンズリブのわかりにくさであり、課題なのである。そして最大の問題点は既に述べた対フェミニズムの姿勢で、今のメンズリブを改善するかあるいは別の言論・政治運動としてやる必要がある。仮に「ネオ・メンズリブ」としておこう。

 しかし「ネオ・メンズリブ」をやるにしても、政策レベルで具体的に何を主張すべきかとなる。さしあたりは以下でも書いた体育の廃止、いじめの厳罰化=少年法の改正くらいしかない。
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 私も今ではリアル=自分の生活が第一という考えで、このようなネット言論特に男女論は、もうこれで最後にしたい。この記事の反応への応答も、特にしないつもりだ。

さらに関連記事:男性学について
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*1:フェミニズム社会学系は「問題提起→社会問題化→社会の同調圧力を高める」で社会を変えてきた。セクハラがいい例だがアカデミックの権威も借りてメディアで言説を拡散し、ビジネス界も味方につけ規範を作り、最終的には法制度に落とし込んで権力で強制するという政治運動手法を取っている。見習うべき点が多い。

*2:環は以下で「メンズリブフェミニズムベースの活動という趣旨が強いため、決してフェミニズム的価値観を押し付けるようなことはしないけれど、フェミニズムがどうしようもなく嫌いという方には合わない場になってしまっているかとは思う」「既存の男性学メンズリブでは、主にフェミニズムに対する価値観の相違を原因としてその(筆者補足・弱者男性論の)問題意識に十分に応えることができない可能性がある」と自覚はしているが完全に他人事で、自分のやってるメンズリブを軌道修正する気はないことがわかる。 https://fuyu.hatenablog.com/entry/2021/04/08/215434

*3:余談だが、旭川市のいじめレイプ事件にフェミニストの反応が弱いのも、加害グループの主犯格に女子がいたことと無関係ではないと思っている。以下でも書いたが、被害者が女性でも加害者が女性だとフェミニズムはバグる。 https://maoukpp.hatenablog.jp/entry/2021/01/23/121013

*4:杉田俊介さんは以下で「周縁的/非正規的な男性」としている。 https://bunshun.jp/articles/-/44981?page=5