うたうポリゴン

魔王K++(ケープラ)のポータル兼個人ブログ

「千里の棋譜」は評価が難しいノベルゲーだが3000円ならマーイーカ

 タイトルの通り、久々となるゲームレビュー「千里の棋譜」。以下は公式。
千里の棋譜 ~現代将棋ミステリー~
 正直に購入動機を書くが、この掲示板(?)である。私はswitch版を買ったが、各ハードでプレイ可能、スマホ版もある。3000円と安いので外してもいいとポチれた。
ノベルゲームで面白いのってマジで少ないよな│SWITCH速報
 まずこのゲーム、マイナーなので情報がほとんどない! wikipediaの記事がないし、お世話になっている以下のサイトにも記事がない。
ゲームカタログ@Wiki ~名作からクソゲーまで~ - atwiki(アットウィキ)
 せいぜいAmazonレビューくらいだ。だからこそ、今回私が筆を執る。公式サイトによるとファミ通レビューの「殿堂入りシルバー」しているらしいのだが、正直「甘すぎるだろ!」とツッコミを入れたくもなる。

 以前書いた以下の記事の『EVE』と比較すると、アドベンチャー要素は少なめ、「ゲームをやってる」感は劣るがその分サクサク進む。音楽がいいせいか、引き込まれる。これぞサウンドノベル
maoukpp.hatenablog.jp
 一つしかない選択肢を無意味に選択させるところは減点だし、複雑な制御はほぼない。そもそも調査パートはそこまで多くないし、犯人当て推理パートもあっさりしている。が、それが一概に悪いとも言えない。この作品は、「ゲーム」よりも「読み物」として楽しむべきだろう。メインストーリー(以下、「第一部」)が一つ、アフターストーリー(以下、「第二部」)が一つでプレイ時間は合計10hくらい、そのあとおまけのおふざけストーリーが一つ。やり込み要素もなくサウンドノベルとしては正直物足りないが、コンパクトにまとまっているとも言える。ボリュームは少なめで、総じて大人向け。将棋に興味があればおまけコンテンツの将棋の森>対局シーンを振り返ることもできる、その他数多い解説「将棋教室」、全80問の「詰将棋」は充実しており、将棋を知るには申し分ないボリューム。
 おそらくケムコのこのシリーズ共通だろうが、UI・操作性に問題はないし、オートセーブなのでBAD ENDからのやり直しもスムーズ。読み直しも「始める」からやり直せば各章から可能、わざわざ自分でセーブをする必要はない。

 公式サイトを見ると「将棋がわからなくても大丈夫!」と書いてあるが、これは嘘。最低限の将棋ルールを知ってる人向けである。ただし、ライト層というかそれ以上は関係なく、プロ将棋業界に詳しい必要はない。本作の最大の特徴もとい醍醐味は、盤面を動かしながらの将棋バトルシーン。これは2時間ドラマなどではなかなかできない描写だ。小説でやろうとしても棋譜の羅列になり、ライト層にはわかりづらい。ゲームだからこその表現と言える。

 肝心のストーリーだが第一部も第二部も、「人が死なないミステリ」であり暴力シーンはなく万人向けではある。その意気や良し。ただ、その内容・詳細には問題がある。ネタバレにならないように言及するが、どちらも主演クラスの女性キャラのムーブがひどすぎる。女性不信、トラウマになるだろというレベル。ろくな女が出てこない。脚本家はミソジニーなのか? とか思ったりする(フェミ的言いがかり)。外見がパンサー向井に似た長野(ちょうの)こそが、本作の真ヒロインである。異論は認めない。年齢制限もある奨励会3段(4段以上がプロ)という崖っぷちの状況で奮闘する彼に対しては、共感せずにはいられない。ずるい演出と言えなくもないが。
 もう一つの問題点が、「本作に出演する実在棋士たちが出しゃばりすぎ」なところ。具体的には、監修をしている高橋道雄9段、香川愛生女流3段(現在は4段)の二人である。他の実在棋士はいいが、この二人はストーリーの本筋にも関わってくるのが非常に邪魔である。フィクションとしての節度をわきまえていない。
 声優の声はあるがフルボイスではない(重要なシーンのみ)ので邪魔には感じない。余談だが、予算の都合かなのか知らないが一部の脇役(主に第二部)の声優演技がちょっとひどい。別に有名声優を使う必要はないが、普段目にするような声優(将棋の世界で言うと一握りの、勝ち上がった4段以上のプロ)はやはりうまいんだなと余計な気づきがあった。主演クラスの演技は問題ないし、最悪声はOFFにできる。

 全体的に欠点を指摘する形になったが、とはいえ、現代ミステリ、それもハードな描写のないノベルゲーってかなりレアであり、万人が読書感覚で楽しめるところは良作と言える。文章にクセはなく、読みやすい。本作もSF要素もあるにはあるが、そこまでぶっとんだ内容ではない。ギャルゲーでもホラーでもない、このフォーマットのノベルゲーがもっとやりたい、このジャンルを応援したいという意味で、私は本作を評価したい。俺で人が死なない現代ミステリの練習しろ。