うたうポリゴン

魔王K++(ケープラ)のポータル兼個人ブログ

『のび太の新恐竜』は評判通り、最低のポピュリズム映画だった

 ドラ映画評論家として、一応観たので記録。シリーズものとしてはこの記事の続きである。
maoukpp.hatenablog.jp
 悪い評判は公開直後から知ってたが、自分の目で確かめてみようと思った。
kagehinata-movie.comorangestar.hatenadiary.jp
 上記2記事で既に批判されている通り、致命的に誤っている「鳥」の進化の歴史。「進化・淘汰」を「個体の頑張り・適応」に曲解し単なる優生思想、ダーウィニズムにしてしまっている。お涙頂戴の「逆上がり」…エモを最優先する糸井重里メソッド。
 脚本家・川村元気の無教養ぶり*1が致命的にならなかった『宝島』の方がまだマシで、できもしない進化というテーマを入れたため整合性皆無のツギハギになっている。
「エモ」については最近炎上が相次ぎ、批判はこのツリーに詳しい。この手のやり口と決別しないと、人類に先はない気がする。政治だけでなく文化もポピュリズムの雲に覆われたままだ。

 上記2記事の批判ともかぶるが以下は試聴時のメモ。CG技術と主題歌以外は、全て脚本・演出の問題である。

  • 冒頭の恐竜展でキャッキャしてるしずかに違和感。「いつもの4人で行動する、登場させる」という構造ありきで、本来の女の子らしいキャラを無視している
  • ミューとキューとの出会い、「生き物を飼うには責任が…」と言ってたドラえもんまで赤面して「可愛い〜」ってなるのはおかしい
  • ミューとキューの表情が豊かすぎる。ポケモン
  • 探検隊コスプレセットは演出上の都合。テキオー灯を使えばいいはず
  • CGの恐竜が作画とミスマッチ
  • 問題の特訓シーンの動機となる、キューが群れの仲間から初見で虐げられる理由が無理矢理すぎる。「小さい、飛べない」だけでいじめられるのなら、子供はどうなる。色や形が極端に違ったらいじめられるかもしれないが、それだと特訓につながらないからというご都合主義
  • しずかが全体的に空気で、ほぼいる意味がない。落ち込んだのび太のケア要員でしかない。とってつけた結婚直前エピソード時のしずかパパのセリフのコピーは失笑
  • TP(タイムパトロール)の行動が意味不明。歴史改変が成功してしまった場合、その人間には手出しできない?完全犯罪ルートという後味の悪さ。絶滅回避という展開自体は旧シリーズの『のび太と竜の騎士』に似ているが、直接TPを出してしまったことでシナリオが破綻している
  • 思い入れがあるためか、ミスチルはやはりドラえもんと合ってない

 改めて、恐ろしい話だった。「劣った人間は努力して成功すべき」というストーリーはアメリカ映画的で、ドラえもんの根本を覆している。のび太の恐竜2006』を簒奪し、ドラえもんそのものも簒奪している。二重の簒奪であり、重罪だ。
『宝島』の体質、そして既にあった批判から観れば腹が立つことはわかっていたが、やはり、だ。二度とこの監督・脚本コンビは見たくない。ドラえもんには関わらず、よそでネオリベシバキなサクセスストーリーを作ってほしい。
 いつものランク付けをすると、
ドラ映画らしさ:E 子供向け:C 大人向け:F
『宝島』同様あざとさ・口当たりのよさは健在で、何も考えずに子供が見る分には楽しめるだろう。だからこそ、ポピュリズムで危険なのだが。

 この映画を一文で要約すると、キューというポケモンのび太がレベル15まで育て「進化*2」させ、「ひこうタイプ」がつきました。となる。恐竜の話でもないし進化の話でもない。そう、『新恐竜』はポケモン映画だったのだ…。

おまけ:

*1:『君の名は。』『世界から猫が消えたなら』などを生み出した川村元気の物語の作り方<『映画ドラえもん のび太の新恐竜』特別インタビュー> | ドラえもん | インタビュー | ニュース | テレビドガッチ 【多様性って「弱者と共存しましょう」みたいな話になりがちな気がして違和感があったんです。恐竜や生物の歴史などを調べていくと、多様性というのは綺麗事ではなく、生物がサバイブするための必須条件だということがわかるんです】 →生物の進化(自然淘汰・適者生存)の話と多様性の尊重は全然別の話、むしろ逆で絶滅危機動物を保護するのが多様性で、自然に任せて絶滅させることじゃない。クリエイター系にありがちな薄っぺらいネオリベ野郎と言えよう。さらに、 綺麗事ではないダイバーシティを、エンターテインメントとして描く/川村元気 | 映画ドラえもん のび太の新恐竜 | Harumari TOKYO【「多様性」というものがなんとなく「弱いものを大事にしよう」という風に勘違いされている気もする。何億年の恐竜史や生物史を見ていると、弱者であるとか変わっているとか突然変異種とかっていうものが、実は進化の第一歩であることがよくある】→パラスポーツにも触れているが、弱者でも「すごい」「感動する」し、長い目で見れば進化的に「役に立つ」から認めよう、という恐ろしいダーウィニズムである。「多様性の尊重」を全く理解しておらず、本当の意味で尊重する気もないのだろう。

*2:進化 - ポケモンWiki