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水鏡推理を6巻まで読んだので一気レビューしてみる

水鏡推理とは

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(画像は公式サイト松岡圭祐の新作ミステリ『水鏡推理』の魅力解剖|講談社文庫より)
 文科省の事務官(ノンキャリ=一般職)水鏡(みかがみ)瑞希が活躍するお話。この作者の小説は初めてですが、女性主人公ものミステリ小説がとにかく得意なよう。若干ラノベっぽいがエンタメ作家として十分な実力があり、ミステリとしても不足はなくおもしろい。最新刊の6巻は今年2月に出たばかりで、去年12月、旅行の移動中にと偶然手に取ったことがきっかけでハマりました。
 見所はまず、新しいミステリとしての完成度。そして主人公の推理力と可愛らしい魅力もさることながら、同僚・上司のキャリア官僚がカッコイイところ。まさにサムライ、男であればこちらに憧れるだろう。もちろん官僚の中にも悪役はいて、ダメな奴はとことんダメであるw
 主人公瑞希とその家族以外、巻ごとに同僚キャラは一新されるので寂しくもあるが、新鮮な気分で読めるシリーズもの。なので連ドラにはしづらい構造になっているが、2時間ドラマにはいいかも。
 余談ながら以下、瑞希について。神戸生まれ、震災を経て東京育ち。Fラン大学出身だが地頭はよく国家公務員試験(Ⅱ種)に合格している。公務員試験にもある「判断推理」が得意な直情型ヒロイン。リアルに人物像を考察すると、確実に「ヤンキーと付き合ってる可愛い子」なのだが一切男の影はないw そもそも中高生時代の回想がほぼないが、男向けエンタメなのでそこは気にしない! それにしても彼女はいつまで「25歳」なんでしょうか。同僚達が皆異動してリセットされるのだから、シリーズ累計かなりの歳月が経っているように見え…こまけえことはいいんだよ!

Ⅰ(副題なし)

ミステリ ☆☆☆☆
ストーリー ☆☆☆☆
登場人物 ☆☆☆☆☆

 オムニ形式で短編集のようにいろんな事件を解決していき、最後の大きな事件で今までの伏線がつながる…という構成。登場人物が皆とても魅力的。はじめは険悪だが段々と信頼関係ができていいチームになっていくという、王道のドラマ展開を見せてくれる。
 事件数が多いため、トータルで同僚達の描写・出番も十分。一本の長編としては☆4つだが、短編集として考えれば5つでもいいくらい。テンポよく次から次へとインチキ科学者を斬っていく様は実に痛快で時代劇を見ているよう。いい歳したオッサンの見苦しく、情けない姿が最高。プロット量は多いので、ぜひともこれを膨らませて連ドラにしてほしい。

Ⅱ(インパクトファクター

ミステリ ☆☆☆☆
ストーリー ☆☆☆☆
登場人物 ☆☆☆

 STAP細胞捏造事件をまんまモチーフにした事件。作中でも「STEP」細胞事件が起きたあとの時系列になっている。作家ならではの新説は、とてもおもしろい。リアルでは謎が残ったままキーマンの自殺で迷宮入りしてしまった事件、本当の動機はいったいなんだったのか。
 事件としてはシリーズの中ではシンプル、関係者の内面に深く迫っていくドキュメンタリーのような構成。ただしあまりに生々しくて受け入れられない人もいるであろう。今回同僚やゲストキャラ含め登場人物はいまいちキャラが立ってない。賛否両論必至の小説だからこそ書ける話で、シリーズ中これだけはドラマ化は絶対無理w

Ⅲ(パレイドリア・フェイス)

ミステリ ☆☆☆☆☆
ストーリー ☆☆☆☆
登場人物 ☆☆☆☆☆

 ミステリとしては間違いなくシリーズ最高傑作。同僚やゲストキャラもいい味出している。今回は山が舞台で、あの旧石器捏造事件をモチーフにした、新発見に揺れる教科書改訂問題を描いている。今回事件関係者の登場人物が多く、さらに地学の話がメインなので難解で少々読みづらいのが欠点だが、中盤以降は一気に引き込まれる。ネタバレになるので語れないがミステリとしての構成がお見事。
 今回から犯人というか悪党が複数いて、結果的に大きな事件に…という流れ。同僚も魅力的で、冒頭の「つかみ」の事件から本編へという流れもスムーズ。エピローグできちんとした送別シーンがあるのはシリーズ中これが初で新鮮だった。今回の同僚もといパートナーは本当にカッコイイ。…私も官僚になりたい。

Ⅳ(アノマリー

ミステリ ☆☆☆
ストーリー ☆☆☆☆☆
登場人物 ☆☆☆

 今回のテーマは気象予報。事件の舞台設定から展開までアイデアは素晴らしい。しかしまず登場人物が面白味に欠ける。少年院の「女子少年」4人の女の子たちも、冒頭でそれぞれの視点で描写があった割には終盤特に何もなく終わるという。作者、主人公以外の女の子を立たせるのがヘタクソか? 同僚の官僚もいい男だが冒頭だけで行方不明になってしまい終盤まで出番がないので、どうにも物足りない。
 悪役たちのクズっぷりはシリーズ随一だが、「人が死なないミステリ」のはずがれっきとした殺人未遂事件であり、全般強引でリアリティがなさすぎる。しかしそれでも、小説としてはおもしろい。
 物語としてのキーワードは、毒親文科省ということで教育・更生がテーマになっている。とにかく作中の毒親たちは皆ひどく、子供達は被害者とデフォルメされすぎな感はあるが、お話としては綺麗にまとまっている。Ⅱとは別の意味で賛否が分かれる作品。毒親育ちの女性はこの作品をどう見るか?

Ⅴ(ニュークリアフュージョン

ミステリ ☆☆☆
ストーリー ☆☆☆
登場人物 ☆☆

 今回から瑞希は異動になり、より「不正を暴く」に近い部署となった。毎度部署本来の機能ではない「はみ出し行動」ではマンネリだし、スケールアップを狙ってのことだろう。その新しい職場で再スタート…という新展開(元々登場人物はリセットされるが)。
 テーマは核融合。「核融合は医学用語でもある」と作中でも説明があり最初ダジャレか? と思わせておいて衝撃の展開に。今回瑞希はシリーズ中最もひどい目に遭う。例によって不用意な行動が原因だがそれは物語の都合上仕方ない。で、なぜ携帯番号を知られていたのか。過去にいろんな事件を解決しているので、恨まれていたんじゃ…という不安と恐怖はシリーズを重ねたからこその迫力。
 だが、今作、正直、一番おもしろくない。これといった見所がない。新部署でいきなり登場するスパコンシステムはIT屋からはガバガバすぎて最初からダメとわかるし、ミステリとしても微妙。
 謎解きは二段構えで、主犯が捕まるまでの前半がとにかくシリアス。その後はいつもの捏造暴露コントで、気楽に読める構成になっている。登場人物は、今回とても微妙。主犯の人物は、いろんな要素を盛り込みすぎてキメラのようになっていてリアリティがない。瑞希をひどい目に遭わせた動機も弱すぎる。ラストの見せ場も、この画を撮りたかったんでしょという強引さが否めない。同僚官僚は今回二人、ネタバレになるので一人はとてもカッコイイがもう一人は微妙とだけ。

Ⅵ(クロノスタシス

ミステリ ☆☆☆☆☆
ストーリー ☆☆☆☆
登場人物 ☆☆☆☆

 テーマは過労死。2016年の電通の事件をさっそく持ってきたか…という作者のスピード感には驚かされる。ちょうど過労認定についての新研究があり、その調査も兼ねて既に起きた官僚の過労死事件を追っていく。今回のパートナーは、落ちこぼれのキャリア官僚でなかなか面白い人物。過労死という重いテーマなので、明るいキャラを持ってきたのだろう。見せ場もあり、いい奴だなあと共感を呼ぶ。
 今回ついにと言うべきか、既に事件化した過労死を扱うため警視庁も出てくる。どこか刑事物っぽい雰囲気が出ていて今までのシリーズからははみ出しているが、これもマンネリ化させないためで変化球としてはありかと。
 ミステリとしては、とても高い完成度。詳しく語れないが「そうきたか、やられた!」となるはず。エピローグにも謎解きが残っている構成もよい。これまで冒頭によくある「つかみ」事件をエピローグの最後に持ってきたという演出もうまい。雇用・労働問題(特に公務員は誤解されがち)を語りつつ、物語もよくまとまっている。

おすすめルート

 ないです。全部読んでください。あえて絞るなら、Ⅰ→Ⅲ→Ⅳ→Ⅵかなあというくらいで。
 さて、最後にまとめですが。オッサンとしてはぜひ一度インチキ科学者になって、彼女のような頭の良い美人にコテンパンにやっつけられるというプレイをしてみたいですねw うーん、インチキ実験や台本を用意するのが大変だ…。