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レビュー『探偵の探偵』は面白いミステリ小説、おすすめはテレビドラマ版

 こんなご時世になってしまったので、なおさらインドア娯楽が重要となった。役に立てば幸いである。
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 画像は以下の公式サイトより。
紗崎玲奈役・北川景子インタビュー|「探偵の探偵」特設ページ|講談社文庫|講談社BOOK倶楽部

 全巻読み終わりテレビドラマ版も全話見たので、合わせてのレビューである(ネタバレなし。4/4に加筆修正し完成)。
 以前『水鏡推理』のレビューを書いたが、『探偵の探偵』は同じ作者の別シリーズである(全4+コラボ『探偵の鑑定』2巻。2014-2016年)。出版時系列としては、『水鏡推理』の直前にあたる。余談だが3巻に登場する鴨井という探偵は『水鏡推理』世界とつながっている。wikpediaはネタバレ注意、情報は公式サイトか、FODならそのままドラマが観れる。
fod.fujitv.co.jp

原作3巻まで

 本シリーズはダークヒロインものハードボイルドで暴力シーンが多め。「人が死なないミステリ」ではなく、コメディ要素は少ない。魅力は、作者得意の男向け「ラノベっぽい美女推理もの」として安定の面白さ。もっともリアリティがないのは主人公とその周辺の人物設定だけで、単純に現代ミステリとして面白い。この作者は(出版時点での)最新の時事ネタと、ITなど現代技術の取り扱いが抜群にうまい。
 ただ、『水鏡推理』とくらべてしまうと全巻280ページ程度とボリューム的に物足りない。ミステリにありがちとはいえ、特に終盤の盛り上がりから一気に終わるのであっさりしすぎで肩透かしを食う(この作者の傾向でもあるが)。

 本シリーズは1巻目から順番に読む必要がある、地続きの物語である。3巻で主人公にとって遺恨ある正体不明の悪徳探偵「死神」を追っていくシリーズストーリーが一段落、テレビドラマ版はそこまでを描いている。
水鏡推理』でも主人公が「不用意な行動で危険な目に遭う→助けられるor自力で切り抜ける」というのは物語上のお決まり展開だったが、本シリーズの主人公・玲奈は腕利きの探偵である。なので、推理は冴えるくせに行動がちょっとマヌケすぎやしないかと思ってしまう(『水鏡推理』の瑞希はただの公務員なのでまだ納得がいく)。
 危険すぎる任務なのにたった一人で行動→乱闘して頭から流血&綺麗な顔がアザだらけになるワンパターンなのは減点対象。「まーた流血コントか」と冷めてしまう。演出の都合とはいえ女性の逆転KOはちょっとリアリティがない。『はじめの一歩』と同じ「打たれすぎ」問題。
 探偵や刑事ものにありがちとはいえ、命がいくつあっても足りないところはリアリティがない。ただ、そこ以外のミステリ本編の構成力はさすがである。

 1巻では玲奈の生い立ちやシリーズストーリーが長く(というか最初は玲奈が所属するスマ・リサーチ社社長の須磨が主人公に見える)、大手探偵会社社長・阿比留がメインストーリーの悪役として登場するが存在感が弱い。しかし2巻では半グレ組織「野放図」を悪役に、DVシェルターから謎の集団誘拐・失踪事件が起きるという真骨頂。このDV夫たちがクズすぎて最高だった。私が「共同戦隊シンケンジャー」と呼んでいる、Twitterにいる奧さんに逃げられた夫たちがまさにこんな感じだなと。エンタメとはいえ男向けであり、女性にはしんどい内容なので注意。
 さらに2巻の事件は3巻にもつながる展開。主犯でなく関係者に過ぎないDV加害者達は野放しで、何も終わっていなかった…という展開からシリーズストーリーも一気に佳境に入る。この作家の手癖というか強引な展開もあるのだが、シリーズ全体の構成は見事である。前述の通り1巻あたりの尺も足りないが、全体をもう少し引っ張ってもよかったとは思う。

テレビドラマ版(2015年)

 今となってはかなり豪華な、北川景子+川口春奈という主演コンビだけでも見どころである。この二人は本当にぴったりのイメージで、原作ファンからすればドラマとしては「約束された勝利」だったのだが視聴率は振るわなかった(後述)。
 男性陣がイケメン過ぎて(須磨:ARATAこと井浦新、桐島:ディーン・フジオカ)最初違和感もあるが女性ウケのためには仕方ないし、いざ見始めたら危険な香りがするイケメンで違和感はない。人物設定や脚本は原作との差異もあるが、特に琴葉の生い立ち設定は許容できるというかむしろ原作超えの改変ではというレベル。
 ネタバレなしで楽しんでほしい+細かい改良点が多いので、ドラマから入ることをお勧めする。小説の暴力描写は女性にはしんどい部分もあるので。実は主演の二人よりも、悪役、特に「死神」をどう描くのか、演じるのかに興味があった。ネタバレになるので役者名は言えないのだが。

 ドラマ自体もよくできている。ここまで不満点のない映像化って珍しい(普通カットされたシーンがあったり、余計なアレンジでがっかりするものだ)。表現媒体の違いと言えばそれまでだが、ドラマ1話の導入部は原作よりもすっきりしていて作品世界に入りやすい。冒頭10分でどういう話かわかる。
 脚本もいい。原作3巻までを11話で描くので尺に余裕があり、細かいところを改変し原作の物足りなさを見事にカバーしている。3話途中までの原作1巻の事件では、ユースケ・サンタマリア演じる阿比留の存在感が格段に上がっている(さらに8話でも刑務所面会で再登場!)。リアリティがないと評価はしたが、この乱闘=ハードなアクションシーンも北川景子が頑張って再現している。
 ドラマ版は琴葉が原作より活躍していて、「コンビもの」要素が強い(原作も4巻以降はそんな感じだが)。三浦貴大演じる警視庁の窪塚は原作の熱さはそのままに、好青年に仕上がっている。スマ・リサーチ社の脇役3人組もイメージ通りで、ニヤニヤしてしまう。

 なお玲奈は原作3巻までで2回全裸になる(させられる)シーンがあるが、ドラマではそんなことはないので男衆は期待しないように!
 後半も好アレンジは続く。逮捕された「野放図」関係者、またとっちめたDV夫からも「死神」の手がかりが得られるという演出、再利用がうまい。桐島の見せ場が増えているのもナイス。
 そして最終11話は「死神」の怪演が圧倒的、素晴らしい。ミステリというより、もはやホラーである。予算の都合なのか最終決戦の舞台と罠の内容が地味になっていてちょっと残念だったが、本筋は変わらず。エピローグは4巻のものを使用、最終回として綺麗にまとまっている。

 まずドラマを見て、その後が気になる人は原作4巻+『探偵の鑑定』を読むのがおすすめルート。残念ながらドラマの視聴率は芳しくなかったようで(元が男向け+主人公の暗い設定で女性ウケが悪かった?)、今更続編として映像化されることもないだろう。本来4巻のドラマ化はSP回でやりたかったはず。さらにシリーズが続けばドラマ2クール目もありえた。だが、それは叶わぬ夢となった。
 視聴率は初回11.9%、平均8%ちょうどだが、言うほど悪くなかったのではないか。こちらのサイトの年別データによれば、ドラマの視聴率はどんどん下がり、2016年からはTOP10でも1桁という有様。
nendai-ryuukou.com
 今はドラマそのものが、特にダーク・ハードな話なんて視聴率が取れるわけない。こちらの記事に完全同意する。
sakaiosamu.com

原作第4巻

 4巻の内容としては、「死神」の師匠にあたる、4巻以前でも名前が出てきていたラスボスの討伐編になる。絶対安全なはずの拘置所内で死刑囚(彼らは「受刑者」ではないので刑務所ではない。知らなかった)が次々に殺されていくというセンセーショナルな事件が起きる。読者目線ではラスボスが犯人もしくは黒幕であることは容易に想像がつくが、一体どうやって…という展開。
 決して期待を裏切る内容ではない。しかしながら、2巻→3巻ほどの盛り上がりはなかったか。惜しいのは、ラスボス以外の4巻から登場するキャラクターをもっと前から出せていれば…ただ、疑うべき対象が減ってしまうので、巻をまたぐミステリゆえの難しさもある。
 本作でシリーズストーリーは堂々完結。キャラクター描写、玲奈のメンヘラぶりも、相棒・琴葉との関係も攻略…じゃなかった、一応の完結。だがどうにも、さみしい。まだお腹がいっぱいではない。全編ダイジェストで駆け抜けた感があり、本来なら倍の8冊くらいはじっくりやれたシリーズだからだ。とはいえ「探偵の探偵」というミクロなテーマから一切脱線せずに完結した潔さは、まさにこのシリーズの構成こそがハードボイルドであったと言える。

コラボ『探偵の鑑定』2巻

 だが、そんなファン心理はお見通し、この周到な作者(出版社)に抜かりはなかった。外伝的アフターストーリーが用意されていたのだ。
 20巻超えの人気シリーズ『万能鑑定士Q』は綾瀬はるか+松坂桃李で実写映画化もされている(2014年)。出版時系列的には『水鏡推理』の途中で書かれている。この作者の筆の速さ、本当に化け物である。
 全2巻だが、こちらは1巻あたりのボリュームも十分。コラボ作品なので、両方知っていれば面白さは間違いないが私は『万能鑑定士Q』シリーズはまだ一切読んでいない。さあどうなりますかという続編コラボだが…。
 めちゃくちゃ面白かった。外伝的な話かと思ったら、『探偵の探偵』的にかなり重要なストーリーが語られる。どうやら世界観は

 という感じである。万能鑑定士Qは角川、それ以外は講談社という出版社の違いも関係しているのかもしれない。コラボとなって中辛になるのかと思いきや、濃い方に引っ張られて辛口というかかなりハードな展開が続く。ただし笑いどころもあるし、しんどさは低め。
 冒頭の玲奈が莉子と出会うまでのシーンは壮大な「フリ」(『万能鑑定士Q』シリーズを読んでいれば「ボケ」)で笑える。

 本作で須磨と桐島の過去が明らかに。4巻でも「獅靭会」という暴力団の名前は出ていたが(先行してドラマでも出てくる)、今までの事件との関係性も明らかとなり、シリーズ全体のラスボス組織として立ちはだかる。「お祭りコラボだから本気出すぜ!」という須磨と桐島のヒャッハーぶりが最高。作者自身が楽しんでいるように見え、もはや『あぶない刑事』である。
 実写版でこの二人の暴れ方を見たかった。750ページを2時間の映画一本で映像化するなら、冒頭に調査業協会の会議シーンで、玲奈&琴葉の莉子尾行から始まる展開(回想でさっと須磨と玲奈の会話を入れる)にするか…などと脚本家目線で妄想する。
 完全にコラボ含めた主役たちを食っている気がしないでもないが、『探偵の探偵』ファンには納得の出来。1巻からすれば、『探偵の探偵』は須磨の物語でもなかったか。その分、エピローグでは一切登場しないところもハードボイルドな締めでニクい演出。

 そして、『万能鑑定士Q』と元々姉妹シリーズのようだが『特等添乗員αの難事件』シリーズも参戦。さらに、驚くべきことに『水鏡推理』まで参戦している。登場は後編の2巻からで、出番は決して多くないが十分な存在感。巨悪を打倒すべく、それぞれが違う場所で得意分野を生かして謎解きをしていく…という松岡ワールド全開のスパロボである。瑞希が出ると知っていたら『水鏡推理』読了直後にこれを読んでいたのに、3年も空いてしまった。いつかは出会う運命だった、ということだろう。
『探偵の探偵』は堂々完結(「2大シリーズ完結」と出版時点で本の説明にはあるが、『万能鑑定士Q』はその後1冊出ているので最終ではない)。さみしくもあるが、主要登場人物が20代前半と若く、数年後の設定でいくらでも続編が作れそうではある。実際、他作品でも別作品の人物が登場したり、設定が引き継がれたりしている。今後も松岡ワールドを注視していきたい。

 改めて1巻を読み返してみる。やはり本作の裏の主役は須磨だったのではないか。商業的に「美女推理もの」である以上、主人公は玲奈だが、実のところは違ったのではないか。オッサンが主人公のハードボイルドにはできないが、せめてもの抵抗というか反逆心を感じたのだが、穿った見方だろうか。
 1巻の解説では「(玲奈は)可憐でタフなヒロイン」という書評がある。たしかに1巻だけを見ればそうかもしれない。しかし、これは完結まで読むと正確ではない。メンヘラであり、きわめて危ういヒロインだった。そんな彼女が合計6巻で成長し、「普通の女の子=春麗END」を迎えるとすれば、大きな変化ではないか。あえて短い巻数、ダイジェストで駆け抜けたのも「人気があろうとハードボイルドをマンネリ化させてはいけない、それは玲奈の人生を破壊する」という作者の想いがあったのではないか。『名探偵コナン』などがよくツッコまれるように、事件に巻き込まれ解決する件数が異常というリアリティの問題もある。

 暴力的作品シリーズを「続ける」ことの難しさを、問いかけているようでもある。ファンはどうしたって、続いてほしい。もっと玲奈に暴れてほしい。でも、それが玲奈の幸せかというと、違う。幸せになるためには、終わるしかない。そんなジレンマが、裏のテーマとして存在している。穿った見方かもしれないが、この観点から本シリーズがさらに楽しめると思う。
 前述の通り、この作品の世界観は「辛口」である。ただ同時に、「こんな世界は間違っている」という強烈な自己否定も感じられる。フィクションの演出上「辛口」にせざるを得ないが、リアルのあるべき姿は違う。作品としても「暴力のない世界」へ向かっていくが…この続きは自分の眼で確かめてほしい(毎度おなじみゲーム攻略本テンプレ)。

 そんなことを言いつつも、私はフィクションに影響され染まりやすい男なのだった。さーて、仕事なんか辞めて、汐留のどこかにあるスマPIスクールで2年間勉強して私も探偵になるぞー。