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『ブラッシュアップライフ』は連ドラという表現を生かし切った名作【ネタバレあり】

 以前特番で見たバカリズム脚本のドラマはイマイチだったのだが、この作品は歴代でもTOP5に入る面白いドラマだった。最終回を迎えしばらくは「ロス」状態だったせいか記事が書けなかったが、なぜ面白いのかを未見の人向けに、言語化していきたい。
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 公式によると、「地元系タイムリープ・ヒューマン・コメディ」。主人公・麻美(安藤サクラ)はどこにでもいる33歳で、いきなり事故で死んで子供から人生をやり直していく。ポケベル、ガラケーに始まり、たまごっち、ゲームボーイアドバンス……といった機器だったり楽曲だったり、懐かしい要素が数々登場する。中学校の嫌な教師など、あるあるに満ちた世界観である。アラサー以上であれば鉄板の楽しさ。バカリズム自ら演じる案内人(死後案内所)と麻美の会話はまんまコントで、本人の強みを生かしている。
 タイムリープものはだいたい、

  1. 主人公がある時タイムリープ能力(あるいは道具)を手に入れる
  2. 最初はくだらないことにその能力を使うが、徐々にシリアス展開になる
  3. 後半・終盤になると主人公以外にもタイムリーパーが現れる

 こんな展開である。本作も実はこの王道をなぞっている。ただし、普通タイムリープは一定の時間なのに対し、「赤ん坊から人生を丸々やり直す」ところが新しい。大谷翔平のような、優秀すぎる人物を評して「人生何周目?」ということはあるが、物語として丸々幼少期からやり直す(それも5周も)という展開は新しかった。これは2時間の映画では不可能で、連ドラという尺が必要不可欠。
 やり直し人生の幼少期は子役で、頭脳は大人なのでナレーションは成人の主人公というところがいい。不倫を阻止するといった、くだらない奔走をするところが楽しい。
 これらは全て、映像だから面白いのだ。小説や漫画・アニメでも表現できなくはないが、面白みは薄れる。繰り返される同じようなシーンも役者が演じるから表情などが微妙に違っていて面白い。主人公・麻美も周回ごとに地方公務員→薬剤師→テレビマン(AP)→医者(研究医)→パイロットと職業を変え、別人のような雰囲気を出すところがさすが役者。

 8話で主人公以外のタイムリーパーである真理の正体とこれまでの経緯が説明されるが、彼女の行動は少し疑問が残る。2周目でパイロットになれたのなら3周目は余裕のはずで、仲良し4人組と疎遠になってしまった失敗は取り戻すはずなのにそれをせず、その後の周回でもずっと疎遠のまま。麻美が医者を目指した4周目、パイロットの5周目に忙しくて疎遠になってしまったのは自然だが、真理の場合はおかしい。最終回で真理と麻美が最後の人生で4人での友情を取り戻す、その感動のための「タメ」、演出でしかない。
 元より転生ややり直し回数がどういうシステムなのか、「徳」とはなんなのか、なぜ記憶を引き継いだまま人生をやり直せるのかとか細かいSF部分は深く考えずに楽しむ作品で、そういう緻密さを求める人にはこのドラマは向いていない。そこはいいのだが、真理の強引な人物描写は少し気になる。よく疎遠になって100年以上もたつ相手のために、パイロットになって事故を回避するモチベーションを維持できたものだ。

 上記の2.で書いた通りで、話の筋としては終盤は結局「大きな物語」に向かってしまう。しかしその詳細というか着地点はやはりコメディであり、最後は感動を呼ぶ造りになっている。最後まで「らしさ」を失わず、連ドラってこういうものだよねという綺麗なまとめ方だった。
 小ネタ満載のエンタメ=長尺のコントとして楽しめばいいドラマではあるが、「人間の幸せとは何か」というテーマもあるのだと思う。本作では恋愛や結婚がほとんど出てこないところも特徴的(麻美が2周目以降、同級生を全く好きになれなくなるのはリアル)で、おそらくメインの4人は生涯未婚(断定はできないが)。そのあたりもイマドキだが、幸せな家庭も描かれておりポリコレベッタリの嫌らしさは全くない。
 大人になっても関係が続く地元の友達、年齢に比例していなくなるものだろう。それもまたドラマならではの、一種のファンタジーなのかもしれない。私には一応続いている地元の友達がいるが、カラオケにはもう何年も行っていない。久々にカラオケに行って、粉雪を歌いたい。北熊谷市(架空)にも行ってみたいし、いつかはあの案内所でバカリズムと会話したい。