前回の記事で少し触れた、男性学の惨状についてまとめておく。
男性学と言えば、今年2月に出た『現代思想』。
青土社 ||現代思想:現代思想2019年2月号 特集=「男性学」の現在
杉田俊介さん、西井開さんの文章は素晴らしいのでオススメ。だがこれだけ読んでも男性学の世界は見えてこない。裏の世界を知る格好の資料が久米泰介さんのこのブログ。
フェミニスト学者への批判・反論 武蔵大田中俊之 2016、6、2 - 久米泰介
アカデミックな男性学の内部事情を知ることができる。
主流派男性学は現状フェミニズムの下部組織であり、女性には絶対服従・一切逆らわないという空気。何かにつけて「家父長制教」への帰依が足りない! と吊るし上げられる。
男性学、メンズリブ運動は世間の無知・無理解・偏見に苦しんでいる。
現代思想男性学特集のレビューで、「男性学は非モテなんかやってるから駄目なんだ」とか「非モテってそんな深刻な問題ってことに驚き!意味わかんない」みたいにしたり顔で述べてるものをいくつか見つけたけど、はっきり言って僕や貴戸さんの論考ちゃんと読んでくれてないんだな、という感想。
— 西井 開 (@kaikaidev) 2019年3月23日
「非モテ」の話はフェミニズムには出てこないから、ジェンダー論に存在してはいけないらしい。当事者曰く「フェミニズムから無視されている」という、女性の非モテについてはこの記事で書いた。
maoukpp.hatenablog.jp
また、このような「男性学プロレス」も多く行われている。
「ここが信用できない日本の男性学」という報告をします。「男の生きづらさ」を主張される先生方と討論する予定です。プログラムは画像を。
— 澁谷知美🧷 (@shibuya1972) 2018年8月19日
国際ジェンダー学会 2018年大会 シンポジウム
男性学/男性性研究のゆくえ
2018年9月2日(日)14時~ 聖心女子大学 宮代ホール
資料代 500円 pic.twitter.com/VMJw6y9WuR
『現代思想』の特集にしても、読者層はフェミニズムファン向け(ほぼ女性)であり、決して男性学ファンやメンズリブやってる人向けではないのだ。近年のフェミニズムにとってビジネス的に「新しいネタ」だから使われるが、その実中身はただの「もっとフェミニズムを勉強してね!」系男叩きで終わっている。
さて、本題となる江原由美子氏のこの間の記事について。男性学への批判はこういう言いがかり、低レベルな言説ばかりである。
gendai.ismedia.jp
まず、「男はつらいよ型男性学」というレッテル貼り。「『男性の特権を回復せよ』やフェミニズム叩き、女性の地位向上反対に接続しうる」という妄想だけで田中俊之さんを一方的に攻撃。たぶん田中さんの著書や論文などをまともに読んでいないのだと思う。批判したいなら具体的に、ちゃんと引用すべきなのに一切それをしていない。
田中さんに限らず「今の社会、男性のほうが女性よりもつらい」などという誰も主張していないことを持ち出す藁人形ぶりにも呆れる。
このようなフェミニスト学者にマウント取られ、怒られまくるのがアカデミック的に男性学の立場の弱さであり、男性学者は自ら男性の生きづらさを体現している。まさに男女逆転した家父長制であり、差別の多層構造という概念(ある属性でマイノリティだったり差別されている人も、別の属性では逆に差別者になる)がよくわかる。
だいたい男性学を盾にしているアンチフェミ・インセル系ネット論客なんて見たことない。専門家は誰よりも慎重にやっていて「そんなことはわかっている」で終わり。
商業的にデビューしている輩もいるネットの議論は見ないふりして、叩きやすい男性学者(それも身内の)だけ叩くというピントのずれ方、ヘタレぶりが今のアカデミックフェミニズムの問題点でもある。あれだけフェミニズムに平身低頭、恭順していても男性学「だけ」が叩かれるのなら、お望み通り多少インセルを引き寄せてでも、ネットの議論に巻き込んでしまった方がいいんじゃないか。
こういう研究内容を全否定するような発言は、アカハラと言う。単なる指導や叱責を超えているからだ。こんな低次元な批判にはバシっと言い返すべきだが、田中さんもそれをしない。見よ、この恭順ぶり!
「男がつらい」時代に「男のつらさ」に寄り添うことは重要である。けれども、その際にもっともセンシティブであるべきなのは、「つらさの認識」が短絡的に「無意識の特権意識」に向かわないようにすることだと思う。https://t.co/dj2ZwbuAqI 江原先生からのご指摘を真摯に受け止め、研究に励みます。
— 田中俊之 (@danseigaku) 2019年8月24日
批判された本人がこんなツイートをすると相手の言い分が正しいように聞こえてしまうし、当人も勘違いする。プロレスは続くよどこまでも。
kutooへの反応がわかりやすいが、アンチフェミ男性は女性が何か自己主張すること自体が気に入らない。それと同様に、フェミニズム学者は男が「生きづらい」系主張することそれ自体が気に入らない。さらに言うと、本音では男性学を潰したいのでは? という疑念がわく。
ある意味では、女性蔑視してくる男性よりも腹立たしい存在なのかもしれない。ともかく領域限定での男性蔑視がひどいのがフェミニズム学者。
力関係的に、田中さんがもし仮にフェミニズム学者に一度でも歯向かったら研究させてもらえなくなるんでしょう。フェミニズム学者は男性学者をいじめ抜いて、その日が来るのを待っている可能性もある。なにせ、学者の世界は椅子取りゲームである。男性学者自身も望んでプロレスでやっているにしろ、逆らえない構造がある以上、完全なアカハラで見てられない。
彼女たち男性学アカハラフェミニズム学者の本音はこう。「男の生きづらさなんか女にくらべたらたいしたことないんだから、ガタガタ抜かすな」。もちろんこんな差別的・ジェンダー規範丸出しなことは書けないから、例の記事は「『男のつらさ』に寄り添うことは、重要である」とはしているものの、ふわっとしている。もっと本音で勝負してほしい。
江原についてはよく知らないが、澁谷については仮性包茎ビジネスの闇を暴く論文があり、本業での実績は評価したい。それでも、男性学がからむとおかしくなってしまう。まことに残念。
男女がからむとバグる論客 エロがからむとバグる自由戦士 男性学がからむとバグるフェミニズム学者
— ケープラ K++ (@maoukpp) 2019年8月27日
現状、アカデミックな男性学は男性を救わない。単なるフェミニズムファン向けへの、男性叩き娯楽ビジネスのやられ役である。エマ・ワトソンのスピーチにもあったように、世間一般でフェミニズムはまだまだ嫌悪されている。それに一役買っているのが、男性学アカハラフェミニズム学者である。